ヤンバルクイナを次世代に|NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄の取り組み

ヤンバルクイナの保護活動をするNPO法人どうぶつたちの病院 沖縄の理事長・長嶺隆さん

「ヤンバルクイナは、2021年までに絶滅する」――

NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄の理事長で獣医師の長嶺隆(ながみね・たかし)さんは、2006年、ヤンバルクイナの絶滅回避を目的に開いた会議で、国際自然保護連合(IUCN)の専門家らによる分析結果を聞き、がく然としたと振り返ります。

世界中でやんばる地域だけに生息するヤンバルクイナ/写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄

ヤンバルクイナは1981年に「94年ぶりの新種の鳥発見!」と報じられた、世界でも沖縄本島の北部・やんばるエリアにしか生息しない飛べない鳥・クイナのこと。環境省第4次レッドリストにも絶滅危惧IA類として掲載されている希少種です。最新の調査では約1,500羽が生息しているといわれています。

長嶺さんが理事長を務めるどうぶつたちの病院 沖縄は、交通事故やさまざまな原因によりケガを負って保護されたヤンバルクイナの治療やリハビリ、飼育下繁殖の研究、生息状況調査、また、やんばるの道路でヤンバルクイナやケナガネズミなどが車にひかれてしまう「ロードキル」の対策を行っています。

交通事故で運ばれてきたヤンバルクイナ。脊椎を損傷して歩くことができません

ヤンバルクイナが少なくなっている理由は…

実はこのヤンバルクイナは今でこそ約1,500羽いると推定されていますが、2005年の調査時は発見時(約1,800羽)の半数以下となる約720羽まで減少してしまったのです。

個体数の減少の主な要因は3つ。中でも大きな要因は、捕食者であるマングースの存在です。「マングースはもともと外来種で、1910年に首里城の近くで17頭が放されました。沖縄県民をハブから守るためだったんですが、マングースは昼に活動して、ハブは夜行性だから出合いすらしない…。しかも、マングースは驚異的な繁殖力で、今ではやんばるまで生息領域を広げて、昼間ヤンバルクイナを食べちゃうんです…」と、まるで自分の失敗のように恥入る様子を見せました。

2つ目は野良猫の存在。「ある日、『ヤンバルクイナが野良猫の餌になっている』という新聞記事を読んだんです。これも本当にショックで…。沖縄県内の野良猫は当然のことながらうちなーんちゅ(沖縄県民)が捨てたネコ。自分たちのせいでヤンバルクイナがこの世からいなくなってしまう…と考えると手が震えました。捨てられたネコが、ヤンバルクイナを食べたり、イリオモテヤマネコの生息地に感染症を持ち込んだりといった現状があります」と語ります。

危機感を覚えた長嶺さんは国頭村(くにがみそん)の安田(あだ)区で、ある行動を起こします。長嶺さんの呼び掛けで集まった獣医師たちと安田区の住民が協力して、区内の飼いネコたちに不妊手術と個体識別のためのマイクロチップの装着を行い、マイクロチップによるネコの登録を義務づけた安田区独自のルール作りをしました。2022年6月からペットショップやブリーダーなどのイヌやネコを販売する事業者には取得したイヌ、ネコへのマイクロチップの装着が義務付けられると同時に、すでに飼っている人には、所有するイヌ、ネコにマイクロチップを装着するよう努めることが規定されましたが、安田区の人たちは日本で初めてマイクロチップによる登録制度を実現したのです。ほかにも、どうぶつたちの病院 沖縄ではネコシェルターを作って、保護したネコの新たな家族を探す活動も行ってきました。

まだまだなくならないヤンバルクイナのロードキル/写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄

3つ目は、前述したロードキルの問題。特に事故が多発しているのは、沖縄県道70号国頭東線、沖縄県道2号線沿い。「とびだし注意」や「横断注意」の看板が多く出ています。

入院中のヤンバルクイナに治療を施す長嶺さん

そうした運転注意の呼び掛けをする一方で、長嶺さんたちは野生動物に優しい道路づくりを国道や県道の管理事務所に提案しました。ヤンバルクイナが道路を横断しなくてもいいように、道路の下にトンネルを通したり、道路の側溝にヤンバルクイナの雛が落ちてしまう事故を防ぐために、雛が自力で抜け出せるような側溝の構造を道路部局や工事業者とともに実験や現地視察を重ねて開発してきました。

ヤンバルクイナの親子/写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄

「昔、地元の土木会社の若いメンバーに『お前たちのような人がいるから(開発の工事ができず)やんばるが発展しない』と責められたこともあります。でも、ヤンバルクイナの保護活動の一環として、側溝の工事や道路下のトンネルを作ろうと呼び掛けて、一緒に仕事をする中で、やんばるに対する思いを分かち合うことができました。側溝の角度を何度にするか実験を一緒にしてくれたり、『ヤンバルクイナをまもろう』と看板を設置してくれたり。今ではすっかり仲間です」と笑顔を見せます。

道路の側溝に落ちてしまった雛。自力で上がれないので、まさに命取り…/写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄

世界自然遺産は“世界からの評価”だけではなく、“次世代への約束”

世界自然遺産に登録されたやんばるの森/©OCVB

そして、「ヤンバルクイナは絶滅する」といわれていた2021年、やんばるは西表島、鹿児島・奄美大島、徳之島と一緒に世界自然遺産に登録されました。

「世界自然遺産になったというのは、単に自然があるということが認められたというだけではなく、世界に誇る生物多様性を我々が後世に遺すことを約束したということなんです。これが数年後までもたないということだったら遺産にはならないんです。評価されたように思うけど、実はこちら側が約束したことなんです」と、長嶺さんはあえて厳しい言葉で世界自然遺産に登録されたことの意味を表現しました。

一方、「やんばるも西表島も世界自然遺産だけど、集落がいっぱいあり、多くの人が暮らしています。人が住んでいながら世界自然遺産になっている。これはすごくまれなことで、沖縄や鹿児島、ひいては日本の誇りだと思います。本当はそういうことも伝えていかないといけないですね」と“愛情”も忘れない。

NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄は事故の多い県道沿いの電柱にヤンバルクイナの救護時の緊急連絡先を記した看板を設置しています/写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄

また、「沖縄って自然が素晴らしいっていわれているけど、沖縄本島の中南部は固有の生き物が減ってきています。沖縄の自然をやんばるだけに任せているのはダメ。“エコツアー”っていい響きなんだけど、実際には『(自然を)使っている』ということ。私たちはこの素晴らしいものを『使っている』一方で、『(自然を)守る』ことが圧倒的に足りていない。もちろん使うことをダメというわけではないんです。“使う側”はものすごく人材もお金も事業も投下されている。一方でその資産を“守る側”は人も少なく、予算も少ない。今の言葉でいうと“SDGsで何を残していくのか”ということを考えていくことも大切なことの一つです。

例えば、グアムではかつてはグアムクイナという飛べないクイナがいたんですが、飼育しているものを除いて、自然界では絶滅してしまいました。これは『その土地の誇るものがなくなっていく』ということなんですよ。沖縄はそうなってほしくない。幸い、まだ自然も文化も芸能も沖縄ならではのものが残っています。ヤンバルクイナも同じです。これを失うことを考えるとすごく恐ろしい…。残すことは大きな意味があることですが、守っていく人の生活が成り立つこと、守っていく人が増えること、この人たちが仕事を継続することができないと自然は守れません。重要な仕事をしているはずなのに待遇は悪いんですよ…。やっている仕事に誇りを持ってはいますが、きれいごとではすまない領域に入っているんだと思います」と、グアムの事例とともに沖縄の課題を挙げました。

“なくなる”を知っているからこそ危機感は人一倍!

ヤンバルクイナ、やんばる、沖縄への熱い思いを口にする長嶺さん

長嶺さんは高校時代、リュックサックを背負っては、沖縄県内の離島に鳥の観察に出ていたそうです。あまりに鳥にハマってしまって大学受験に失敗。大学合格まで“禁鳥(鳥の観察を我慢すること)”を目標に掲げますが、その年にヤンバルクイナが発見されたニュースを知り、気づいたら安田の集落にいたそうです。

「ヤンバルクイナは絶滅するかもしれない」と人一倍危機感を覚える長嶺さんですが、それにはある一つの体験が強く影響しているといいます。「子供の頃、住んでいるうるま市(旧・具志川市)には大きな干潟があったんです。私が高校生だったある日、そこに流木が流れ着いていたのでそこに座っていたんですよ。ちょうど大潮に重なって足元まで海水に浸るような状態になったときに僕の周りを囲うように数千羽の鳥が集まってきて…。身じろぎもできなかったんですが、幸せな瞬間でしたよ(笑)。その後、満ち潮が押し寄せ、その鳥たちが一斉に飛び立ったんですが、それはそれは何とも美しい光景で…。でも、その干潟は近年の開発で埋め立てられ、なくなってしまいました。それを子供たちにはもう渡すことはできないんです…」。

右奥の鳥は鳴き声も美しい渡り鳥のアカショウビン。治療後、野生に返す前にフライングケージで飛ぶ練習をさせます

消えてゆく干潟、絶滅の淵に立つヤンバルクイナ…人間の営みで追い詰められていく故郷の自然のありさまに長嶺さんは何度か沖縄のことを嫌いになりかけたといいます。

そのたびに長嶺さんの気持ちを沖縄に戻したのも、やんばるの安田集落の人々でした。「これまで(ヤンバルクイナのために)なりふり構わずやってきましたが、常に支えてくれたのは地元沖縄の人たちだけでなく、多くの関係者の皆さん、そしてスタッフたち」と、感謝の気持ちを忘れません。

交通事故で保護され、治療して回復したヤンバルクイナの放鳥/写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄

長嶺さんは最後に、「もっと沖縄の自然を良くして、ヤンバルクイナも増やして、次の世代に渡したい。本来、沖縄の自然はもっと豊かです! それを次世代に渡したい。みんなで一緒にやりたい!」とシンプルですが、力強いメッセージを伝えてくれました。

私たちができることは…

餌を探し回るヤンバルクイナ/写真提供:NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄

ヤンバルクイナのために、専門的な知識は持たずとも、私たちにもできることがあります。

まずは、やんばるを中心にした沖縄の自然を愛すること。そして、やんばるの道を車で走る際は、ぜひ速度を落としてください。これだけでロードキルで命を落としてしまうかもしれないヤンバルクイナを1羽でも救うことができます。

そして、自然界は微妙なバランスで成り立っています。外部から動植物を持ち込むと、それでバランスが崩れ、絶滅や大量繁殖などの不均衡の原因となってしまいます。ちょっとしたゴミもしかり。貴重な生態系を守っていくために配慮しながら、豊かな自然を楽しみましょう。

今回紹介したNPO法人どうぶつたちの病院 沖縄では、下記の公式サイトにて、個人からの寄付も募っています。

長嶺さんが思い描く「もっと豊かな沖縄の自然を次世代に」つなげるために、それぞれができる形でやんばるの自然やヤンバルクイナの未来を作っていきませんか。

【「NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄」公式サイト】

オリオンビールではチャリティアイテムも発売!

オリオン×CHUMSのコラボアイテム

オリオンビールはアウトドアファッションブランド「CHUMS」とのコラボで、「NPO法人 どうぶつたちの病院 沖縄」の活動を支援するチャリティアイテムを発売します。
オリオンビールとCHUMSは、世界に誇る沖縄の自然を楽しみ、守り・育むことを目的にコラボレーションを続けており、2021年夏・2022年春に発売した沖縄の海遊び×サンゴ礁保全をテーマにしたアイテムに続き、第3弾。2022年9月17日(ヤンバルクイナの日)に公式通販で発売スタートしますので、ぜひご覧ください。

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